●マチエール
堀井さんの描く作品には様々な絵の具や技法が混在していますが、彼にとっては絵の具
や技法の違いとは色の元である顔料と画面を結びつけるバインダー(接着剤)だけが違う
という認識に過ぎず、異なる絵の具を組み合わせて描いている感覚は持たれていない様
に感じられました。鉛筆でこすって仕上げてみたり、カシュー漆(漆の代用として利用
されるカシューナッツの油)を塗ってみたり、絵画用としては一瞬耳を疑ってしまうよ
うなものまで幅広く画材を取り入れられています。そのような独特の画材や組み合わせ
は、彼が一番重要視しているマチエール(絵肌)を、理想に近づけるために試行錯誤を
重ねた結果だったそうです。


「今までの絵描きさんはマチエールが大事といいはるけれど、それは絵を構築する上で
のことと考えていたんだと思います。でも、僕の場合は根本的に異なっていて、絵を構
築する技法・技術としてのマチエールじゃなく、マチエールそのものがあることが絵と
しての存在意義だと言えるぐらいのものであって、僕の中でその意味はとても大きいん
です。」


印刷物や画像データのようなイメージだけが一人歩きしている現代において、
絵に実体としての『物質感』を与えることができるマチエールは絵作りにおいて、
イメージと比肩するほど重要であると考えられています。
生の絵にこだわるのは他のメディアに比べそのマチエールの効果により、
イメージがより強く心に残るからであり、
そういう絵作りが理想だとおっしゃられていました。


「ぼくら、額縁に入る絵を描いてる人間はね、何をやっているのかと尋ねられても別に社
会に役立つことをしているわけでもないですし、大した存在意義なんてないと思ってます。
ただただ、見てもらって喜んでもらうためだけに描いているんですよね。
今、ビジュアルのものがこれだけ多種多様になってきた中でね、
あえて額縁絵画のようなジャンルが何で必要なのかというと、
結局は生の絵の良さや、どれだけ印刷の技術が進歩しても
絶対に表現しきれないところに理由があるんだと思うんです。
だから僕は、特に絵の具の持ってる質感のようなものに拘るんですね。
100年ぐらい前だったらそんなことを考える必要はなかったと思うけれど。
ぼくら現代の絵描きの仕事は、マチエールやものとしての素材感や
存在感をより厳しく要求されているんだと思います。」

                                      

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